五鈷杵は金剛杵の1種類で、もとはインドにおける武器の一種でしたが、仏教に取り入れられ、密教の代表的な法具となり、いかなる煩悩や苦悩も破壊するとされています。 金剛杵には様々な種類(独鈷杵・三鈷杵・五鈷杵・九鈷杵)などがありますが、その鈷(切っ先)の数によって違いがあります。
五鈷杵は杵の両端が五本の鉾となっていて、三鈷杵と同じように真ん中の一本を中心に他の四本の鉾が内側に向いています。もともとは五叉の鉾でしたが、その武器が形が変容して中央の鉾を中心に四本の鉾が内側に向きました。 鉾が外に向かっている時には他を傷つける武器でありますが、これが内側に向かった時には、煩悩に振り回されることなく自らを制御し、成長させ他に善行をなす行動をとることができることを意味しています。
密教法具の国宝としては、平安時代初期に空海が唐より持ち帰ったと伝わる東寺の「五鈷杵・五鈷鈴・金剛盤」などが知られます。
五本の鉾は五仏(大日如来・阿しゅく如来・宝生如来・阿弥陀如来・不空成就如来)の智慧を表す五智(法界体性智・大圓鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智)(ほうかいたいしょうち・だいえんきょうち・びょうどうさっち・じょうそさち)を表し、五仏は曼荼羅の世界におけるその他のすべての諸尊の根本の尊格でもあります。 そして五仏のうちの四仏は、大日如来の総徳を分ち、大日如来一尊より顕現したものです。
従いまして大日如来の内証の知恵である法界体性智は、その徳を開けば四仏、四智となります。
大日如来の法界体性智を開いたものが大圓鏡智以下四智であるので、五智といっても法界体性智に帰一することになります。金剛とは永遠に壊れないものという意味であり、漢字名からは最高の硬度を持つ杵となります。 大日如来は密教における中心本尊で、サンスクリット語でマハー・ヴァイローチャナといい、それを音写して魔訶毘盧遮那仏(まかびるしゃな)とよびます。
マハーは「偉大な」「大きい」という意味で、ヴァイローチャナは「太陽」「照らす」という意味で、大日(偉大な太陽)となり大日如来とよばれます。 広大な宇宙のあらゆるものを照らし続ける仏で、すべての仏・菩薩。明王などは大日如来の化身であり、いわば宇宙を神格化した仏であるといえます。
金剛頂経という経典の金剛界曼荼羅の中尊である金剛界大日と、大日経という経典の胎蔵曼荼羅の中尊の胎蔵大日があり、それぞれ印相が異なります。 金剛界と胎蔵の二つの曼陀羅を両界曼荼羅といい、金剛界と胎蔵は二つに分けられるのではなくて一つであるということを指す言葉で「金胎不二(こんたいふに)」といいます。
大日如来は仏教の二大要素である、理と智を象徴するために二体がおられ、それぞれ表裏一体で分けられません。
五鈷杵は代表的な密教法具で、いかなる煩悩や苦悩も破壊するとされています。 五鈷杵は、五仏や五智を表し、曼荼羅の世界におけるその他のすべての諸尊の根本の尊格でもあります。